放課後の図書室でお淑やかな彼女の譲れないラブコメ【感想・レビュー】
どうも、にまめです。今回は、『放課後の図書室でお淑やかな彼女の譲れないラブコメ』の感想を語っていきたいと思います。
自分はどこに
客観視することに長け、周囲に合わせた自分を作ることができる。それゆえに、自分の感情に自信が持てず、自己とはなんなのかがわからない。主人公の静流はそんな青年だったわけですが、それが徹底して描かれ、かつストーリーに深く関わってくる時点で、僕はこの物語にとても引き込まれたのです。
僕は脳死で読めるラブコメも大好きですが、どちらかと言えば、ラブコメの中に人間が深堀されたドラマが描かれているものの方が好きです。ですので、この作品にはかなり食いつきました。おお、面白いぞと。
この先の展開がどうなるかわかりませんから何とも言えませんが、この作品は静流がヒロインたちとの関係を通して自己を獲得していく物語と、僕は解釈しました。そして、そうなって欲しいと思います。
先述した通り、静流には自己が感じられません。そして、本人が『欠落』だと言っていたように、そのことに対して自覚的です。
明言されてはいませんでしたが、僕は文章から静流が『欠落』に対して自虐的なニュアンスを感じ、無自覚にしろ彼なりに悩んでいるのではないだろうかと思ったのです。だからこそ、これは「成長」を描く物語なのではないかと思ったわけですね。
そして、なんと言っても素晴らしいのはヒロインたち。かわいいのはもちろんのこと、テーマの上においてもそれぞれが重要な立ち位置にいます。それでラブコメをしようと言っているのですから、どんなトキメキとドラマが待ち受けているのか楽しみで仕方ないですよね。
まずは表紙にもいる瀧浪。お淑やかで人当たりがいい美人――だが、実は静流の同類であり、同じく『欠落』を持っているヒロイン。「彼女は周囲に合わせることをしない」=「本当の自分」という考えに至り、同類である静流の傍にいることで自己を確認していましたね。
彼女は静流にとって、内面を共有できる人間です。彼は瀧浪の傍にいても自己に自信を持つことはできませんでしたが、しかし、自分の内面を深く理解し認めてくれる唯一の存在であると言えます。
次に、1巻の核でもある蓮見。快活で面倒見がよく裏表のはっきりとした、これまた美人。静流との確執は、今回の物語でしっかりと描かれていました。
彼女は静流にとって、境遇の似た存在です。自己のないはずの彼がはじめて感情らしい感情を見せたのが、母の喪失を実感し泣き崩れたときでした。そんなとき気持ちを理解し、慰めてくれたのは蓮見でしたよね。彼女は静流の傷の部分に触れられる、同じ痛みを持つ人間なのです。そしてなにより、全てを失った静流にとっての残された肉親なのです。
最後に、ミステリアスガールである奏多。彼女はとても謎の多いヒロインでした。
静流が積極的にかかわろうとしていた人間は、読んでいた限り奏多だけだったと思います。これは推測でしかないのですが、静流は奏多に憧れを抱いているのではないでしょうか? 奏多は常に超然とし、自分の世界を築きあげていました。そんな彼女を見て、『欠落』を持つ静流は自然と魅かれていったのではないかと僕は思います。その役割が、彼女には与えられている。
この作品の面白さは、このように三者三様の関係があるなかで、静流はどのように成長するのか。そして、この3人の誰を選ぶのか。そこに詰まっていると思います。ここまでしっかりと内面の葛藤や関係性が描かれているのですから、自然と期待が高まります。これは本当に面白そうだ。楽しみです!
最後に
長々と語ってしまいましたが、素晴らしい1巻だったと思います。あくまでこれは僕の解釈・楽しみ方なので意見はさまざまでしょうが、なんにせよ面白いと思うので是非読んでいただきたいと思います。