オーバーライト―プリストルのゴースト【感想・作品紹介】
ストリートのカルチャーに明るい人ってだいたいいい人。僕は明るくないですが、出会ってきた方々はどの方も尊敬できる素晴らしい人たちでした。ただし僕は馴染めない(隠者)。そんなわけでどうも、にまめです。今回は、『オーバーライト―プリストルのゴースト』の感想を語っていきたいと思います。ネタバレはなしです。
あらすじ
イギリスのブリストルに留学中の大学生・ヨシは、バイト先の店頭で落書きを見つける。それは、グラフィティと呼ばれる書き手(ライター)の意図が込められたアートの一種だった――。
グラフティを中心に描かれた、芸術と魂の物語。霧の街で今、ライターたちの熱い思いが燃え上がる。
こんな人にオススメ!
・グラフィティと向き合う、ライターたちの熱い思いが見たい!
・自分を見失った人たちの、殻を破らんとするその闘志を見たい!
グラフィティってなに? そんな人でも大丈夫!
あらすじにもあるように、この作品はグラフィティに生きる人たちの物語です。……はい。なんのことだかわからない、という人たちも多いのではないでしょうか? 僕も知りませんでした。
グラフティとは、簡単に言えば、街の壁などにスプレーやフェルトペンで描かれた落書きのことだそうです。皆さんも一度は見たことがあるのではないでしょうか? 作中でも触れられていますが、最も有名なアーティストではバンクシーが挙げられるそうです。僕も、「あー、あれってグラフィティって言うんだ!」となりました。
ともかく、グラフィティについて知識ゼロの自分でも楽しむことができるほど、この作品ではグラフティについて解説してくれています。主人公のヨシも、作中冒頭で初めてグラフィティを知る、知識ゼロのキャラクターとして描かれています。
バンクシーのレベルまでいくと世間で話題になるほどですから、「すげー、これが芸術なのか」となりますが、やはり僕の中ではストリートのイメージが強いです。この作品も、この絵が美術的にどうこう、というよりはストリートに生きる人たちの叫びを描いた作品でした。
ブリストルはグラフィティアーティストにとって聖地のような場所だそうで、そこかしこにグラフィティがあるそうです。ですが、グラフィティという文化は手放しで褒められたものではないようで、本来”落書き”であるわけですから、迷惑がかかってしまう部分もあるようです。
この物語の一つの側面として、芸術と社会のぶつかりあいというものがありました。現実でも、グラフティは対策しなければならないものとして問題視されているらしく、好き勝手そこら中に書いていいものではないそうです。しかし、一方でグラフィティに魂をかけている人たちもいる。
芸術と社会、そこの折り合いはどうなされるべきなのか。難しい問題ですが、描かれているテーマと話の展開が面白く、魅入ってしまいました。いいねっ、好き!
なぜ彼らはスプレーを持つのか?
この作品の一番の見どころはやはり、グラフィティに生きる彼ら彼女らの生き様でしょう。
タイトルにもなっているオーバーライト。これは、グラフィティの世界の中で暗黙の了解となっているルールのことだそうです。『上書き』という意味のこのルール、文字通りこれは他の人の絵を上書きすることだそう。そして、それは自分がその絵に勝る絵を描ける場合にのみ。
グラフティの世界は、とても厳しい。自分の絵は知らない誰かにオーバーライトされるかもしれず、その実力は実力をもってつぶされていく。筆を折るものも多く、淘汰され淘汰されが繰り返される世界。
そんな中で、この『オーバーライト』のキャラクターたちはグラフティを描いていきます。彼らはなにを考え、なにをもって絵を描くのか。その生きざまに、魅せられること間違いなしです。
そして、そんな彼らだからこそぶつかってしまう壁に、どう立ち向かっていくのか。その先が見たい方はぜひお手に取って読んでみてください。
最後に
話の展開はベタだったかなと思ってしまいましたが、作中のキャラたちの熱量に圧倒されとても満足できました。最初はバトルものかとも思いましたが、そういうわけではなかったですね。どちらかといえば、アートを通してそれぞれの生き方に迫った物語でした。
個人的にとても刺さるジャンルでもあったため、非常に楽しむことができましたね。ノンフィクションも多分に混ざっているようで、読後にあとがきで知り驚きましたね。アートってすげえ。
今回はここらで終わりたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。
まとめ
ジャンル:(なんて言えばいいのかわからんが強いて言うなら)青春
面白さ:★★★★☆
魅力:グラフィティに生きる人々の心の在り方とそのかっこよさ