ソードアート・オンライン1を徹底解剖!【コラム・後編】
前編・中編と続いてきたこのシリーズも今回で最後になります。今回は、設定・世界観の視点から『ソードアート・オンライン1』(以下『SAO』)を紐解いていきたいと思います。前編・中編を読んでいないひとはぜひ併せて読んでみてもらいたいです。
それでは早速、語っていきましょう。
設定だけで楽しめる重厚な世界観
『SAO』は言わずもがなVRMMOという仮想現実のゲームが主軸の物語です。そのため、世界観設定は作品の面白さを左右する重大な要素となってきます。その点、《SAO》の世界は非常によく練られたものだと言えるでしょう。
ゲーム系ファンタジーを作る上で何よりも重要なこと。それは物語云々の以前に、そもそも舞台となるゲームを読者にやってみたいと思わせられるような設定を作ることにあるでしょう。キリトやアスナといったキャラクターがたとえ存在しなくても、そのゲームの存在だけで胸をおどろされるような設定を。
『SAO』はVRMMOものの走りですから、確かに当時の読者からしたら心を躍らせざるをえない設定だったでしょう。しかし、時代という環境を差し引いたとしても、《SAO》は魅力あふれるゲームだと言えるでしょう。ゲームなどのメディアミックスが成功したことからもそのことはわかりますし、なによりここまで爆発的に売れないでしょう。
では、《SAO》というゲームの魅力はなんなのか。その一つに、リアル(仮想現実世界におけるリアリティ)とゲーム(仮想現実世界におけるゲーム性)の絶妙なバランスが考えられると思います。
ゲームであり、現実でもある
VRMMOに何より欠かせないのは、「ゲームの世界がもう一つの現実である」という感覚でしょう。《SAO》では体を自在に動かせることはもちろん、料理や釣りといった生活系のスキルや家の購入、味覚エンジンの搭載、気候・四季の変化、睡眠欲・食欲の存在など、暮らしの要素がふんだんに盛り込まれています。
このバトル要素以外にも細かく目が行き届いたシステムこそが、「もう一つの現実」を強く意識させてくれる――つまり、リアルを感じさせてくれる要素となっています。
しかし、繰り返すようですが、《SAO》はあくまでVRMMOという”ゲーム”です。だから、その世界はただの異世界になってしまってはならず、ゲームらしさを感じさせてくれるギミックがなければいけません。
《SAO》では、各種のスキルやクリスタル使用時のエフェクト、料理の簡略化やハラスメントコードの存在など、所々でゲームであることを思い出させてくれる仕掛けが施されています――つまり、”ゲームであること”をしっかりと守っているのです。このバランスは、後のVRMMO系ファンタジーに大きな影響を与えたのではないでしょうか。
《ソードスキル》の魅力
また、《ソードスキル》は『SAO』の中でトップクラスに入る素晴らしい設定だと言えるでしょう。作中でも触れられているように、《ソードスキル》という魔法などメジャーなファンタジー要素を排したシステムは、《SAO》の要ともいえるコンセプトです。
VRMMOである以上、その醍醐味は現実では不可能なかっこいい動きを自分で体感するところにあります。その点、エフェクトとともに自分が動いて剣技を使う《ソードスキル》はとても理にかなったシステムで、読者も思わずやってみたいという要素になっていますよね。しかし、《ソードスキル》は単なる「このゲーム面白そう」という感情を湧き立たせるギミックではありません。『SAO』の物語自体をより盛り上がらせる効果も持っているのです。
『SAO』は死への恐怖――つまり緊張感が非常に重要になってくる物語です。その緊張感をより高めるためのギミックとして、《ソードスキル》が大活躍していると思います。
もし《SAO》が魔法もありの世界だったら、ここまでの緊張感を出すことはできなかったでしょう。なぜなら、魔法(特に遠距離系)は技術の求められない攻撃方法だから(偏見)です。魔力を高め、魔法を覚え、それを標的に向かって撃つ。銃と違って射程が広いものが多く、命中率などが細かなに設定されている作品はそうそうないと思います。きっと、魔法の醍醐味は広範囲、高火力の技を放つところにあるというイメージがあるからではないでしょうか。
しかし、剣技をはじめとした近接格闘術は違います。拳にしろ武器にしろ、一瞬の隙が死につながるという緊張感の中熱いバトルを繰り広げる……これはやはり、接近戦の醍醐味といえるでしょう。
ファンタジーなのに魔法が存在しないという設定は、『SAO』という死と隣り合わせのゲームを物語とした世界には、最適だったと言えるのではないでしょうか。
最後に
『ソードアート・オンライン1』は、一冊の中に物語がきれいに詰まっているライトノベルだと僕は思います。3編に分かれて魅力を語ってきましたがいかがでしょうか?
もし原作を読んだことがないという人は、ぜひ原作も読んでいただき、アニメとの違いを堪能してもらいたいと思います。
そんなわけで、今回はここで終わりたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。