明日もきっと、ライトノベルと

読んだラノベの感想・レビューを載せています。面白かったもの、刺さらなかったもの。両方とも基本的にはレビュー作っていきます。楽しんでもらえれば幸いです!

弱キャラ友崎くんLv.8.5【感想・ネタバレあり】

 本気で泣いた経験ってありますか。悔しくて悔しくてたまらなくなって、どうしようもなく負けたくないと、心の底から思ったことはありますか。もしそんな経験があるのならば、それはきっとかけがえのないもので、あるいは呪いのようなものになるのでしょう。わかりませんが。

 そんなわけでどうも、にまめです。今回は、『弱キャラ友崎くんLv.8.5』の感想を語っていきたいと思います。

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“本編級”短編集、ふたたび。

文化祭が閉幕した翌日。
2-2の面々は、打ち上げ兼クリスマスパーティを開催する。

各所で盛り上がるなか、友崎は、ふたりで話す日南と菊池さんの姿を見かける。
あいまいに誤魔化されるも、友崎はその内容がやけに気になって――。

NONAME誕生。みみみと菊池さんのカフェトーク。カラオケ会。友崎と出会う前のレナなど……。
年が更けていくなか綴られる、それぞれの人生。それぞれの選択。

アニメ化企画も進む人生攻略ラブコメ、待望の最新刊。

 

文化祭を終え、彼女たちはなにを思うのか――

 

 ”本編級”の短編集と銘打っていますが、それに見合う内容だったと思います。それだけ、この巻には大切なものが描き出されていました。

 巻末にあるドラマCD書下ろしシナリオを除き、今回のお話は全部で6篇ありました。全て面白かったですが、中でも目を惹いたのは本編ではあまり描かれることのない、ヒロインたち視点の物語。そして、彼女たちの間で交わされていた様々な会話です。

 文化祭は、作中の多くのキャラにとって大きな転機を迎えることとなったイベントでした。その後日譚、そしてこの先に繋がるであろうエピソード。あの濃密な文化祭のあと、彼女たちはなにを思ったのか。気になって気になって、あっという間に読み終わってしまいました。

 今回は、特に3人のヒロイン―みみみ、菊池さん、日南にそれぞれ焦点をあてて話していきたいと思います。(レナは割愛、ごめん!)

みみみにとって、友崎とは

 

 7巻で悲しくも、みみみは失恋してしまいました。しかし、彼女は友崎の背中を押し、彼は菊池さんと付き合うことができました。『好きな人のカノジョ』は、そんなみみみがひょんなことから、菊池さんと二人きりで話すことになるエピソードでした。

 ここで、当然友崎の話になり、みみみは自分が失恋したことを菊池さんに打ち明けました。勇気すごいかよ。

 そして、話の流れで菊池さんはみみみの友崎への想いを、言葉として形にしてくれました。二人が友崎に惹かれた部分は同じでした。しかし、だからこそみみみの辛さが伝わってきて、切ない気持ちになりましたね。

 けれど、みみみは心に正直になり、菊池さんへ友崎のことは諦めていないと宣言します。彼女の真っすぐさがぐっとくるのでしょうか。いつも自分の心に対して無理をしてしまう彼女ですが、その姿はつきものが取れたかのようで、読んでいて清々しい気持ちになりました。

 きっと、失恋してしまったみみみも、菊池さんと会話することで気持ちの整理がついたのではないでしょうか。新たな一歩を踏み出すみみみを、僕は応援しています。

菊池さんと噛み締める幸せ

 

 次は天使――じゃなくて菊池さんですね。この巻では、菊池さんと友崎の初々しいラブコメを見ることができました。その距離感といいやり取りと言い、いかにも付き合ったことのない高校生といった感じで、とてもリアルに二人の息遣いを感じることができました。

 『ファースト・クリスマス』の終盤で描かれていた、デートの日取りを決めるやり取り。少し我儘になった菊池さんの言葉や仕草には、友崎への純な強い恋心が現れていて、その破壊力たるやすごいものでした。彼女としてこれ以上の存在がいるものか、と思ってしまいます。

 そう思ってしまうから、より8巻ラストでの展開に大きな不安が募ってきます。二人の関係は壊れてしまったのか、菊池さんはいったいなにを感じたのか…とても続きが気になります!

魔王日南は、まだ遠い

 

 最後は日南です。日南は未だに底知れない闇を抱えているようで、その本心を覗くことのできない、最も謎多きヒロインです。ですが今回『名もなき花』を通して、日南の中学時代、そして”NO NAME”誕生秘話を知ることができました。

 学年主席、バスケ全国優勝……様々な目標・演じられたキャラの裏に隠されていたのは、滲むような努力と1位という数字への異様な執着でした。

 しかし、残念ながらバスケ全国優勝を逃すことになります。日南はそれでも、「完璧な日南葵」を演じようとしますが、そこで彼女は気づいてしまいます。多くの人間が抱く感性と自分の感性が、決定的にずれてしまっていたことに。

 日南にとってバスケとは自分の力を証明するためのツールであり、チームを全国優勝に導かなければ意味をなさないものでした。一方で、日南以外の部員は、彼女の熱意にあてられてバスケと向き合い始めました。きっと、成長していく自分たちやバスケそのものに楽しさを感じていたのでしょう。バスケ部員の多くは、日南とともにバスケをやり、全国優勝を目指していくこと自体が、なにより楽しいことだったのだと思います。

 この意識の違いが、日南に他人との差を意識させることになってしまいます。

 結局、日南はバスケでの失敗の原因を他者に求めました。それと同時に、遥の勧めで始めたアタファミに熱中し始めます。それは、日南が忘れてしまっていた”楽しい”という感覚を呼び起こしてくれた作品であり、己の力だけで成り上がる日南にとっての神ゲーだったから。

 こうして見ると、日南はこの作品のキャラの中で最も歪んでいるといえます。彼女は友崎君と共にいる時でさえ、つまり、僕ら読者が見ている中ですら心の奥底が見せません。それほどに、彼女は完璧すぎるのです。

 しかし、アタファミをプレイしているときの彼女からは、生の感情を感じ取れる気がします。負けて悔しい、けれど楽しい。そんな気持ちが。

 日南に関してはまだまだ明かされてない部分が多いです。日南はどうして、ここまで完璧を求めるようになったのか。妹の死という、重い過去が意味することとは。いつか日南の闇が消えて、アタファミ以外でも彼女の仮面の下を覗ける日が来ることを願うばかりです。頑張れ友崎。

最後に

 

 今回の短編集は、文化再編の整理と今後の展開への布石を打ったと言う感じでした。気になることは多く、まだまだ波乱が起こりそうな予感がします。待ちきれない気持ちを抑えながら、今回は終わりたいと思います。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。 

 

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